たそがれガァ太郎




たそがれガァ太郎




 4月10日、市のスポーツセンター北側の道端にハシボソガラスの死体が落ちていた。

「ついに死んだ…のか?」

 ここは毎年春になるとしつこく襲ってくるカラスのテリトリー内。バイト先への通勤路なので、自転車で通る。通るとガァガァわめきちらしながら追い回しに来る。

 名づけてガァ太郎。こいつが襲うのはどうやら僕だけみたいだ。理由はよくわからない。いたずらしたわけでも、ちょっかい出したわけでもない。

 路上の死体を足先でひっくり返してみた。外傷はない。死因は不明だ。

 死んだのなら、これからは平和だ。と安心し、自転車に乗って帰りかけたら、正面から黒いやつがガァガァとわめきながら降下してきよった。死体を爪先でこづき回してたのを見て、怒ったのかもしれない。まずは追い払いながら退散。

 生きてるんじゃねぇか。すると死んだのはメスのほうか、メスの産んだジュニアだな。

 ガァ太郎は去年つがいになった。ジュニア(性別不明)が一羽産まれた。たいてい三羽いっしょだ。今年に入っても親離れすることなく、いつもいっしょだった。仲がいいものだ。

 今はペアの二羽のみ。死んだのはたぶんジュニアだと思う。道の両側には田んぼと畑があり、農作物を荒らしてるみたいだ。農家の人が毒餌をもった可能性はある。なんともわからないのだけど。


 ガァ太郎は僕を目の敵にして、4月から5月の2か月ほどの間、そこを通りかかると襲いかかってきた。ガァガァと威嚇しながら、スポーツセンターの照明灯から急降下してくる。カミカゼ特攻機みたいにまっすぐ突っ込んでくる。かわすと、ガァッ!といって、脇をかすめていく。反転上昇し、旋回してまた襲ってくる。そのくり返し。

 僕は何もしないでやられっぱなしになってるわけではない。棒など、武器になりそうなものをあれこれ捜しては持ってきて、振り回してぶち当てようとした。なぜか、当たらないのだ。黒いかたまりが突進してくるのは相当なプレッシャーだ。びびってしまうということがある。映画の中世古代の戦場シーンでは勇敢に激突していくのが見られるが、よほど精神を鍛えていないと、激突する一瞬では冷静に相手と対峙できないということが、実感としてよおくわかった。

 いろんなことを試した。マヨネーズの空容器に唐辛子粉を溶いた水を入れ、ポールの先にとまったところを狙い、発射した。目に入れば視力を奪えるかと思ったのだ。狙いすまして、ピュッ!とやったつもりが、フタが開ききってなくて液が四方にとび散った。カラスの顔に命中せず、自分の顔にかかってしまった。

 タコ糸に重りをゆわえ、振り回して脚に引っかけようとした。なかなかからまってくれない。ていうより、そもそも自転車に乗りながら後方から来るものにひっかけさせようというのだから、相当にムリがあるわな。

 手製の銛を作り、突っ込んでくる瞬間に突き立てようとした。当たりそうな気配すらない。

 誰も見てなかったと思うけど、人がいたら「ちょっとアブナイ人」に見られただろうな。


 今年も3月の終わりごろになると当然、戦闘の時期に突入するものと想定してるから、自転車にアルミのパイプをセットした。しかし今年、なぜかおとなしい。ジュニアが死亡して意気消沈してるのだろうか。そんな繊細なやつなんだろうか。

 二三度、例年のように追いかけるそぶりを見せた。が、しつこく追い回してはこない。おとなしく農具小屋の屋根に、ペアでとまっている。近くへ寄って様子をうかがおうとすると、逃げようとする。

 よく見ると、ガァ太郎は羽毛がボサボサで、みすぼらしい。ずいぶん老け込んだ印象がある。カラスの寿命って何年なんだろう。こいつは何歳なんだろう。


 戦闘意欲をなくしてしまったようなので、自転車からアルミパイプを取り外した。

 来年はどうするんだろう。戦闘態勢に復帰したら、またアルミパイプを自転車に装着、ってことになるのかなぁ。どうすんの?ガァ太郎君。


ひょっこり通信 2006.9.10




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